傳田流 成功法

ベンチャーと大企業の橋渡し組織が必要 / ペレグリンセミコンダクターの場合(2)

前回は、米Peregrine Semiconductor社の日本法人ペレグリンセミコンダクターは、日本発の戦略で沖電気工業との提携にこぎつけたことを書きました。提携実現に当たっては、いかにベンチャーの新技術を日本の大企業に理解してもらうのか、という問題もあったのです。

Peregrine社は、同社のUltra-Thin Silicon(UTSi)技術を説明するときに、“シリコン・サファイア”というキーワードを言ってはいけない、という指示を出していました。基盤にサファイアを使うことによって、製造コストが高い、というイメージが先行するというのがその理由です。

確かに、一般のシリコン・ウエハと比べて現状のサファイア・ウエハの価格は約2倍もします。しかし、シリコン・サファイア技術を使うことによって、(1)トランジスタ構成が簡単になりトランジスタ1個のサイズが小さくなる、(2)回路間のクロストークが少なくなる---などのため、同機能・性能の回路は通常のCMOS回路より小さくなり、結局はチップ・サイズが小さくなるのです。チップ・サイズが小さくなれば歩留まりも良くなりますので、最終的なチップの製造コストはあまり変わりません。

このように私は、海外発の新しい技術を日本に紹介するときには、その技術を正確に伝える必要があると感じています。日本の技術者は基本技術が理解できれば、その応用製品を考案することに長けているからです。

しかし、PeregrineのUTSi技術が、コストが高いというシリコン・サファイアのデメリットを解決する技術である、ということを説明することは簡単ではありません。PowerPointで作った説明資料は50ページ以上にもなります。日本の大手半導体メーカとの提携を実現するためには、ある程度権限を持った方に説明するための時間を割いていただかなくてはなりません。

まず、Peregrineとの提携話は沖電気に最初に持ちかけることにしました。沖電気はすでにSOI(silicon on insulator)技術を量産製品で実用化済みです。シリコン・サファイアはSOI技術の一種なので、同社が最もシリコン・サファイアの特徴を理解してもらえると判断しました。また、シリコン・サファイア技術は携帯電話機に内蔵する部品の小型化に貢献します。沖電気はこれら部品の供給も行っていますし、携帯電話機のCPUとして広く使われているARMプロセサのライセンスも取得しています。

私はインテル在籍時代から沖電気社長の篠塚 勝正氏とは懇意にしています。したがって、篠塚氏にはリーダシップがあり新しい技術に取り組む意欲があること、沖電気の半導体グループは風通しがよいことなども知っています。そこで、今回の提携話については篠塚氏とのトップ会談で攻めてみました。すると沖電気は、Peregrineと契約書を結ぶ前に同社のSOI技術とPeregrineのシリコン・サファイア技術を比較して、Peregrineのシリコン・サファイア技術の優位性を認めてくれたのです。トップ会談が実現できたことで、日本発の戦略が成功したとも言えます。ところが、現実的には大企業のトップとコネクションを持った人材がいないベンチャーも多いのではないでしょうか。

この問題に関しては、経済産業省あるいはその外郭団体などがバックアップする、ベンチャーと大企業の橋渡しをする組織が必要だと思います。いわゆるベンチャーと大企業とのマッチング(交流)を促進する組織です。民間企業がこのような組織を運営することは、投資に対する見返りが期待できないため難しいでしょう。また、日本の大企業は役所が関係してくると積極的になる傾向があると感じているからです。

この組織は、単にベンチャーの技術紹介にとどまらず、大企業の技術や人材もベンチャーに紹介するようになれば、両者のニーズが整合して素晴らしい組織になると思います。

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