傳田流 成功法
見せかけの業績評価ではダメ / Intelの人事評価制度の場合
ITベンチャーのコンサルティングをしている上で、かつて在籍していた米Intel社での経験を紹介する機会が多くあります。先日ある大学院から、MBAを取得する学生のための勉強会での講演を頼まれ、そこでもIntelの経験を話しました。Intelもかつてはベンチャーの一つであり、その具体的な話題は興味を持っていただいています。
今回は、あまり公表していないIntelでの人事評価についてご紹介しましょう。Intelが成功した理由の一つにその人事評価システムがあることは間違いありません。Intelの人事評価システムは、単なる個人の業績評価ではありません。会社の戦略的な目標を達成するための一つの手段なのです。そのやり方はとてもシステマチックです。
Intelの人事評価方法の一部に関しては、Intel会長Andrew Grove氏の著書『High Output Management with a new introduction (日本語訳:インテル経営の秘密)』で紹介しています。(1)上司との面談を通して、(2)目標到達度を確認し、(3)最終的には評価される側がサインすることで評価が決まる---というものです。
ただ、形式的にこれらを真似ただけではうまくいきません。目標到達度を評価することから、その目標レベルを最初から低く設定してしまうという危険もあるのです。Grove氏の著書では、上司と部下の面談に苦労したエピソードに多くのページを割いていました。だからといって、面談で評価を最終決定することを躊躇してはいけないのです。やり方を間違えると、業績主義の人事評価を導入しておきながら、結局は会社全体の業績は向上しなかった、ということになりかねないのです。
まず目標の設定の仕方です。私が日本法人インテル社長のときには主に売上高や個別事業の対前年比の伸び率など、四つの目標を掲げました。そしてそれらを実現するための戦略と、それぞれの戦略に対する戦術を明確にしました。その戦略や戦術が各部門で達成する目標となるのです。各部門ではその目標をさらにブレークダウンしていきます。したがって、各従業員の到達すべき目標は非常に明確になります。各従業員が目標を達成すれば、会社の目標を達成することになるのです。
3カ月ごとに各自の目標に向けた取り組みをチェックしていきます。そのときは上司だけでなく、部下、同僚や外部の取引先などからの情報もインプットしていきます。その情報は、(1)あいまいな表現ではなく数値表現を含んで、(2)必ず文章として記録しておき、上司が閲覧できるようにしておきます。
そして、1年後にこれらの情報を加味しながら目標到達度を含む最終的な評価を行います。私の評価は他の地域の現地法人社長たちと同じ基準でした。評価項目は、(1)リスクを踏んだ挑戦を受け入れているか、(2)結果主義の評価をしているか、(3)規律を保っているか、(4)製品や社内人材の質を向上しているか、(5)原材料納入元や顧客との関係はよいか、(6)働き甲斐のある職場環境をつくっているか---という六つです。
最終的な評価は、上司の上司が決定するため、私の場合はCraig Barrett氏やAndrew Grove氏が最終評価者でした。上司の上司は、不可解な評価があれば上司にその説明を求めることができます。3カ月ごとに残している上司以外からインプットされた情報の記録も参照できます。つまり、日本で特有の盆暮の付け届けや学閥・出身閥など、評価者個人の感情に基づいた評価は通用しません。
具体的な1年後の評価時には、目標達成度のほかに、(1)担当した仕事、(2)弱点とその強化策、(3)今後のキャリアパス、などを含めて順位付けをし、評価を上位、中間、下位のカテゴリに分けます。さらに“トレンド”として各個人の目標達成度の伸び率(速い、妥当、遅い)も評価します。上司と部下の面談の目標は、会社の目標を達成するために、各個人の目標と達成度をお互いに確認することになるのです。評価は最終的に昇給率を決めます。速い人は1年間に2回も昇給します。つまり、Intelにおいて業績は常に右肩上がりであることを前提として目標を設定しています。
このシステムは全世界のIntelで共通の方式であり、地域の特殊要因はありません。結局、経営者は従業員に対して明確で公平な評価をしている、という信頼を得ることで業績主義の人事評価システムが生きてくるといえるでしょう。