傳田流 成功法

トップダウンの目標設定が必要 / Intelの結果主義とは

前回までは、米Intel社で経営者に求められている六つの資質のうちの一つ“リスク・テイキング”を紹介しました。今回は、2番目の資質である“結果主義の評価をしているか”という点を紹介したいと思います。

Intelの結果主義は、文字通り目標到達までの途中のプロセスを問わず、結果のみで各部署や各従業員を最終評価します。しかしその結果主義を実現するためには、建設的な議論を通じて目標を設定する、などその具体的な方法も決めていて、単なる結果主義にとどまっていません。結果主義の方法もシステム化されています。

Intelの結果主義とは、具体的には、(1)挑戦的で競争可能な目標を設定する、(2)結果に焦点を当てる、(3)責任を負う、(4)建設的な議論を通じて問題解決に当たる、(5)目標実現に当たり過ちを犯さない---ということを定めています。

一般的に、結果主義においては各部署または各従業員が自ら目標を設定する場合が多く、その目標の妥当性を経営的に議論しているところは多くないと思います。ところが、Intelでは、その目標を議論し設定することも経営者の仕事の一つとして明記しているのです。経営者は、会社としての目標を明確にしていますから、それによって各部署や従業員に期待する目標を明示することができます。

例えば、私が日本法人インテル社長のときには「2000年に日本法人の売上高を3000億円にする」ことを目標の一つとして挙げました。当時はパソコン市場がまだ拡大しており、さらにネットワーク製品にも期待していました。また、携帯電話機市場が急拡大していました。

まず、部下を通じて目標設定のための資料を集めました。政府発表の世界および日本のマクロ経済予測を始め、第三者が発表しているIT産業の市場予測、顧客の事業計画などを収集します。これらのデータを基に、Intel社内の新技術や新製品情報を加味して、3000億円達成のための部署ごとの目標を設定します。その目標は、ベスト・ケースおよびワースト・ケースを想定した範囲で示しました。

各部署は、この範囲の中からどこまで達成できるのかを決めます。このとき、その部署の目標としてベスト・ケースを選択し達成できれば、結果主義の評価はとても高いものとなります。そして、各部署は高い目標をどのように達成していくのか、ということを各個人への目標としてブレークダウンしていくことになります。

一方、各部署では実績や能力を基に独自の目標を設定する場合もあります。その目標が、私が期待するものと異なっていた場合、その部署の責任者は私が提示した目標を否定することができます。もちろん、否定するときには、具体的な問題点や代替案を明示しなければなりません。

これが、Intelの結果主義のやり方に明示している“建設的な対立”です。私も、米Intel社で各国の現地法人の経営者が集まった会議でこのような体験をしました。当時社長のAndrew Grove氏に、はっきりと「ノー」と発言した副社長がいたのです。それぞれ社長や副社長個人を否定しているのではなく、あくまで相手の考え方やアイディアを否定しているのです。私を含め日本人は、個人と考え方の区別にあまり慣れていませんから、最初これを目のあたりにしたときはとても驚きました。議論に対する態度はとてもオープンであることがIntelの文化であるといえます。

議論の結果、その副社長は最終的には「disagree but commit(賛成しないが目標達成は約束する)」と発言しました。議論の最中に否定したとしても、最終決定した目標は達成しなければなりません。もちろん、目標達成状況は常にチェックしていますから、環境変化に応じて途中で目標を設定し直すこともあります。

このように、Intelの結果主義は会社の目標と部署および従業員の目標がつながっており、結果主義において会社と従業員は一蓮托生といえます。目標設定におけるトップダウンとボトムアップのギャップが従業員に対してモチベーションを与え、ひいては従業員の実力アップにも貢献していると感じています。


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